【完】白衣とお菓子といたずらと
「……」
「……」
先ほどまでの雰囲気が嘘のように、部屋の中が静まり返っている。
お父さんも黙ったまま、けれどお酒を飲む手は止まる気配がなかった。
「礼央君……」
――ガタっ
「……はい!」
ぼそりと、小さな声でお父さんが呟いた。
急に呼ばれた俺は、抱えていたグラスをテーブルに置き、慌てて姿勢を正した。
そっと置いたつもりのグラスは、思いがけず大きな音をたててしまった。
「さっきはああ言ったけれど、親として不安でもあるんだよ」
“不安”が滲み出てるのか、ボソボソと覇気のない声だった。酒がまわっているのか、最初に挨拶したときよりも、呂律が回っていない気がする。
「美沙は……娘たちは、私にとっては宝物なんだよ。人生の全てだと言ってもいいくらいに。礼央君にとっても同じってことなんだろう?あんなに幸せそうなんだ、君と一緒になることは私も喜ぶべき事なんだよ……な?」
やっぱり娘の結婚は、寂しいんだろう。お父さんが少し小さく見えた。
娘の前ではこんな弱音というか、不安な姿は見せたくなかったんだろう。
“結婚”というものの重さを感じた気がした。
「必ず……必ず幸せになりますから……僕たちを信じてください」
今の俺に言えるのはこれくらいだ。
たった一言で不安を拭えるような力はもちろんない。俺の存在自体はそれだけ無力なんだ。
「……」
先ほどまでの雰囲気が嘘のように、部屋の中が静まり返っている。
お父さんも黙ったまま、けれどお酒を飲む手は止まる気配がなかった。
「礼央君……」
――ガタっ
「……はい!」
ぼそりと、小さな声でお父さんが呟いた。
急に呼ばれた俺は、抱えていたグラスをテーブルに置き、慌てて姿勢を正した。
そっと置いたつもりのグラスは、思いがけず大きな音をたててしまった。
「さっきはああ言ったけれど、親として不安でもあるんだよ」
“不安”が滲み出てるのか、ボソボソと覇気のない声だった。酒がまわっているのか、最初に挨拶したときよりも、呂律が回っていない気がする。
「美沙は……娘たちは、私にとっては宝物なんだよ。人生の全てだと言ってもいいくらいに。礼央君にとっても同じってことなんだろう?あんなに幸せそうなんだ、君と一緒になることは私も喜ぶべき事なんだよ……な?」
やっぱり娘の結婚は、寂しいんだろう。お父さんが少し小さく見えた。
娘の前ではこんな弱音というか、不安な姿は見せたくなかったんだろう。
“結婚”というものの重さを感じた気がした。
「必ず……必ず幸せになりますから……僕たちを信じてください」
今の俺に言えるのはこれくらいだ。
たった一言で不安を拭えるような力はもちろんない。俺の存在自体はそれだけ無力なんだ。