【完】白衣とお菓子といたずらと
「君の言葉を信じるよ。……美沙は、礼央君にはわがままを言うことがあるかい?」


急に話しが変わり、少し困惑した。


「え?あっ、はい。わがままというか……はっきりとは言ってくれませんが、行動や態度で示してくれるような感じです。情けない事ですが、僕が見落としているサインもあると思いますが……」


俺も多少は酔っているんだろう。今なら何でも喋ってしまいそうだ。


美沙が居たら怒られるかもしれない。答えてみたはいいものの、お父さんの質問の意図は分からない。


けれど、先ほどまでの不安そうな表情は消え、なぜか安心したように笑った。


「美沙は君にちゃんと心を開いているようだね」


「……?」


嬉しそうに、けれどどこか寂しそうに言うお父さん。俺は頭上にハテナを浮かべるばかりだ。


「美沙の母親……私の妻が早くに亡くなったことは聞いているだろ?」


「はい、もちろん彼女から聞きました」


「そのせいで美沙には随分を苦労をさせてしまってね。しっかりしていて、早くから親である私を頼らなくなったんだよ。私に気を使っていたんだろうね、いつも自分の気持ちを我慢していたよ」


……あー、そうか。そんな環境が今の美沙を作ったのか。


確かに美沙は自分の気持ちに関しては、堪えてしまう、飲み込んでしまう傾向がある。


「けれど君にはサインをしっかり出しているんだね。安心した。私たち家族には絶対に見せないからね。美沙が心を開ける場所ができたんだね」


お父さんは笑っているのに、目からは涙が一筋流れていた。綺麗な涙だと思った。


娘の事を本当に想っているからこそ流れている涙だと思うから。


きっと小川家の人たちは、相手を思いやる気持ちをちゃんと持った人たちなんだろ。


美沙と、お父さんと、2人を見ていて感じた。








「美沙を……頼みます」


お父さんは深々と頭を下げてしまった。


俺は顔をあげてもらおうと、慌ててお父さんの肩に手を掛けた。


「いやいやいや、お義父さん顔をあげてください」


「……」


そのままお父さんは無言になってしまった。


なかなか上がってくれない頭に、どうすればいいのかとひどく焦った。


誰か俺に答えをこっそり教えてほしい。
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