【完】白衣とお菓子といたずらと


――ガチャ

「ただいま」

「ただいまー」


しばらく1人でボーっとしていると、玄関の開く音が響いた。


そして、それと同時に美沙の声と、間延びした声が聞こえた。


カツカツとヒールの音が鳴り止むと、ガタガタという物音に変わった。きっと靴を脱いだんだろう。


「礼央さん、おまた「シーーー」


リビングに入ってくると同時に、俺に声を掛けてきた美沙に対して、人差し指を唇に宛て、静かにするように伝えた。


俺の行動に美沙は首を傾げたけれど、すぐに視線がお父さんの方へと移動し、あーと頷いた。


そんな美沙の後ろから、美沙よりも少し小柄な女性が現れた。


……あんまり、似てないな。


「あれ?お父さん寝てるー。こんばんは、初めまして美沙の妹の沙里奈です」


俺が自己紹介するよりも、美沙が紹介するよりも早く、妹の沙里奈ちゃんは自分から挨拶をしてくれた。


俺は慌ててソファから立ち上がった。


「こんばんは。山下礼央です」


「ずるい、お姉ちゃん」


俺の顔をじっと見たあとに沙里奈ちゃんが言った。……ずるいって?


「何が?」


美沙も同じ事を思ったらしい。


「だって、身長高くて、いい男でずるいよ。私も彼氏欲しい……」


「医学生の彼はどうしたの?」


「えー、あんな人とっくに別れたよ。自分の話ばっかりで、本当につまんなかったし」


次から次に言葉が出てくる様子に唖然とした。


顔だけじゃない、こういう所も美沙と似ていないなと感じた。


今も誰か紹介してと俺に言ってきたり、それを美沙に咎められたり、意外な姉妹だなと思った。


こうなるともう1人のお姉さんがどんな人なのか気になったけれど、残念ながら今日は帰って来ないらしい。


会えるのはまたの機会になりそうだ。
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