【完】白衣とお菓子といたずらと
沙里奈ちゃんともしばらく話をした後、俺は美沙に送られて家に帰ることになった。


今日は美沙も実家に居るだろうと思って、電車で帰るつもりだったけれど、美沙も一緒に俺の家に帰ると言う。


お父さんも眠っちゃったから、と沙里奈ちゃんに後の事は任せてきた。


「――家に居なくて良かったの?」


正面をしっかりと見つめハンドルを握る美沙に尋ねた。


もちろん俺は助手席に座っている。


「うん、沙里奈がちゃんとやってくれるよ。それに、飲みすぎたお父さんが悪い」


お父さんが悪いと言いながらも怒っている様子はなく、笑い声が漏れている。


こんな柔らかい表情で笑う美沙は初めてかもしれない。それだけ、大事な空間なんだろうな。家族と一緒にいる美沙を初めて見て、やっぱり羨ましいと思った。


俺にだけ見せてくれる顔も、もっと増えてくれればいいのにと、彼女の親姉妹に嫉妬した。


「礼央さん、ごめんね」


「え?何が?」


急に謝られたため、彼女の言葉が理解できなかった。


「……お父さんね、わざと私に沙里奈を迎えに行かせたみたいなの。きっと礼央さんと2人で話をしたかったからだとは思うけど。お父さんとは初対面だったし、本当は私も一緒に居なくちゃいけなかったのに……」


なんだ、そんなことか。そうやって、敏くてすぐに気に掛ける美沙のことが、お父さんは心配だったのにな。


「俺もさ、話が出来てよかったから、美沙はそんなこと気にしないでいいよ」


「本当に……?ありがとう」


そうそう、ごめんじゃなくてありがとうの方が俺は嬉しいかな。


けれどありがとうと言われるようなことを、俺はちゃんと出来たんだろうか。

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