【完】白衣とお菓子といたずらと
「最近、リハビリ忙しいみたいだね」
リハビリが始まってもうすぐ3週間が経過する頃、小川さんは2日に1回くらい俺の病室を訪れるようになっていた。
「そうなんですよ。だいたい秋頃って患者さん少ない事が多いんですけどね。今年は、胸腰椎の圧迫骨折がすごく多くて、体幹チームだけじゃ追いつかなくって、私達にも患者さん回ってくるんですよね。普段担当しない疾患だから、勉強会したりで、もうくたくたです」
俺がお見舞いでもらったプリンを食べる手を止めながら、長々と説明してくれた。
最近ここを訪れる時間が、病院の夕食前から夕食後の時間になってきて、仕事が大変そうな事は伝わっていた。
土曜日の今日、特に彼女は疲れきった顔をしていた。
「……疲れてるなら、早く帰ってゆっくり休むといいのに。わざわざこんな所に来ないでさ」
俺は嬉しいけど、来なきゃいけない、義務として来てくれているんじゃないかと不安になる。
彼女の対抗を犠牲にしてまで、俺の喜ぶ事はしなくていいのに。
「来たいから来るんですよ。これもあるし」
これと言って、持っているプリンを俺の視線の高さまで掲げた。
愛おしそうに見つめながら。
「本当に小川さんって甘い物好きだよね」
食べ物、特にデザートの話をするときの小川さんは、とびきり可愛い笑顔を見せてくれる。
甘い物>俺の図式がはっきり見えるのは、悲しいけど。
仕事上の付き合いだけでは見ることの出来ない表情を見る事が出来ていることを喜ぶべきなのか。
「はい、大好きです」
俺の目を見て、可愛い笑顔のまま言う彼女にドクンと心臓が脈打つのが分かった。
決して俺に言っているわけではないのに……すごい破壊力だ。
今のはプリンがだから。静まれ、俺の心臓。
彼女にバレないだろうかと、今度は別の意味でドキドキした。