【完】白衣とお菓子といたずらと
昼食前に足浴も終わらせ、いつものようにいつリハビリが始まってもいいように、病室で待機していた。



――コンコン



扉をノックする音に時計を見ると、いつもより少しだけ早い時間だった。


「失礼します。山下さん、ギプス取れたみたいですね」


扉を開けたのはもちろん小川さんで、部屋に入ると同時に笑顔で嬉しそうに言ってくれた。


「あー、昼前にはカットしてもらったよ。今日からお手柔らかに頼むね」


俺の言葉を聞いて、笑い方がさっきまでのニコニコとした笑顔から、何か企むような笑顔に変化したのを俺は見逃さなかった。


はっきりと「どうしようかなー」と小さな声で呟いていたけど、今のは聞かなかったことにしよう。


「今日からリハビリ室でのリハになるんだよね?最初は車椅子でいいのかな?」


俺の移動手段は今のところ車椅子のみ。


もうしばらく免荷らしいから、松葉杖を使えるのももう少し先なのか。


そこの所が今のところ1番疑問で、病棟内での生活にすごく影響する点でもある。


「あー、移動ですよね。今はとりあえず車椅子で行きますよ。今日から松葉杖での歩行練習もしていくので、大丈夫そうであれば松葉杖貸し出しますよ。たぶん、山下さんなら力もあるし、細いし大丈夫だと思いますし」


無意識なのだろうか、俺の体格を確かめるように上腕に触れながら彼女は言う。


いつも思うけど、こういうスキンシップはやめてほしい。リハビリに関係のない部位を、話したりしながら触れてくる事が多々あるのだ。


違うと分かっていても、勘違いしてしまいそうになる。


男の悲しい性を分かってほしい。





「細いとか、力とか関係あるの?」


邪な感情がバレてはいけないと思い、出来るだけ平静を装った。


「あります、あります。行きながら説明するんで、まずは車椅子に乗ってください」


思いのほか話していたため、時計を見てハッとした小川さんに急かされてしまった。

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