【完】白衣とお菓子といたずらと
「………」

「………」


説明してくれるといったのに、2人の間には気まずい程の沈黙が流れている。

不思議だよな。


どうしてエレベーターに乗ると、人って黙ってしまうのか。


2人きりなんてベッドサイドリハでは当たり前だったじゃないか。


それなのに、エレベーターに乗った途端にこれだ。


結局、目的の階に着くまでの間、お互いに一言も言葉を発することはなかった。


ほんの数秒から十数秒の間だったというのに、すごく長い時間のように感じて、息苦しいくらいだった。


「あぁ、行きましょうか」


扉が開くと同時に、彼女は俺の乗った車椅子を後ろから押してくれた。


本当は自分で自操できるけど、今日だけ頼る事にした。


「さっきの続きですけと……」


エレベーターを降りたら、いつも通りに小川さんが話してくれるようになっていた。


「松葉杖って、結構腕の力が必要なんですよね。だから女性の中には身体を支えきれ切れなかったり、体格いいとこれまた支えきれないしで、使う事は何とかできるけど実用性がない事が多いんですよ。免荷での松葉杖移動を許可するのは、若めの男性が多いですね」


こうやって普段から説明しているんだろうな。


理屈というか、理由までこんな風に説明してもらうと、理解できなくても患者は安心するもんだから。


今は、俺もその患者の1人。


あんなに初々しかった小川さんも、今は立派なPTなんだよな。


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