【完】白衣とお菓子といたずらと
姉が出て行って10分くらい経っただろうか、七瀬が退屈し始めた頃、姉もやっと戻ってきた。


「姉ちゃん、七瀬ほったらかしにして、何してたんだよ」


俺は呆れて、ため息が出た。


「いいじゃない、あんたが居るんだし、少しくらい。小川さんだっけ?あの子にお世話になってるお礼にって、ケーキ渡してきたのよ」


……え?色々突っ込みたいんだけど、いいだろうか。


まずさ、何で

「ケーキなんか持ってたわけ?」

そこから聞くべきだよなと、頭の中を整理した。


いつも俺のところには、身の周り品しかもって来ないじゃないか。


「だって、もうすぐあんた誕生日でしょ?」


何言ってるの?とばかりの顔で姉が答えた。


――驚いた。自分の誕生日なんて忘れていた。怪我をして、入院してで、それ所じゃなくなっていたから。誰に祝ってもらうわけでもないしな。


「やっぱりあんた忘れてた」


俺の反応にクスクスと姉が笑っている。この俺の反応をきっと予想していたんだろう。


「当日は来れそうになかったから、少し早いけどさっき買ってきたのよ。甘くないもの選んだんだけど、あんた間食ほとんどしないでしょ?今日は既にさっきの子と食べてたみたいだからもう食べないだろうと思って。小川さん甘い物好きっていってたから、良かったらって追いかけて渡してきたのよ」


だから慌てて出て行ったのか。


けどさ、それにしても

「渡すだけにしては長くなかったか?」


理由は納得したとしても、今度はその部分が引っかかった。


「あー、それは内緒よ。あっ、小川さんに聞いても無駄よ。女同士の秘密の話だから」


そう言ってニヤニヤと笑う姉に、なんだか嫌な予感しかしなかった。


けれどこの人は頑固なのだ。たぶん、いくら聞いても話さないだろうな。


そう思うと、これ以上聞くことを諦めるしかない。


こういう諦めるというか、全てを受け入れようとする術は、この姉の存在によって身に付けさせられたと言っても過言ではないように思える。


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