【完】白衣とお菓子といたずらと
「――失礼します。リハビリいいですか?」


いつもより少し早い時間に小川さんは訪れた。


先週までは半袖の白衣だけだったのに、今日は一枚カーディガンを羽織っている。


この格好も似合うなー。


って、そんな事考えている場合ではなかった。


週末も頭の中は彼女だらけで、つい今は必要のない考えが頭を過ぎった。


「あー、大丈夫だよ。今日からもよろしくね」


了承の返事をしながら、ベッドから車椅子へと乗り移った。もちろん、免荷で。


そんな俺の様子を見ていた小川さんは、小さく「あっ」と声を出した。


「どうした?」


不思議に思って、車椅子の横に立っている彼女を、座った状態で見上げながら尋ねた。


「今日から、タッチウェイトです。そして、可動域訓練も他動でオッケーの許可でたので、今日からビシバシいきます」


そう言って、彼女はとても楽しそうに、ニコニコと笑った。可愛い笑顔なのに、恐怖を覚えた。


この様子だと俺が痛がると、喜びそうな気がする。自分で想像して、背筋が凍るような感覚がした。


病棟内は松葉杖で歩いているけれど、今はまだ長距離は車椅子移動中。


だから、今日もいつも通りに小川さんに車椅子を押されリハビリ室を目指した。


「あっ、今日から移動も松葉杖にしようと思うので、松葉杖も持っていきますよ」


……いつもと少し勝手は違うみたいだけれど。


促されるまま松葉杖を抱えて、リハビリ室へと移動する。

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