【完】白衣とお菓子といたずらと
さわやかな朝、けれどどんよりとした俺の心。
朝の回診や食事よりも先に病室へ訪れた人物にため息が漏れそうになったが、元直属の上司だった人物相手に失礼かと思い、なんとか飲み込んだ。
「あーら、本当に居たわ」
彼女は開口一番こう言った。
元上司の、
「岩下しゅ……師長。お世話になります」
申し訳なさと、恥ずかしさから苦笑するしかなかった。
ベッド脇に立ち、こちらをニヤニヤと笑いながら見ている彼女は、俺が入職したての頃お世話になった人。
入職してから3年目の途中までは俺も整形外科病棟に勤務していた。
その時ものすごくお世話になったのが、当時主任だった岩下さん。
厳しかったけど、俺の看護師としての基礎を作ってくれた人。
「怪我した上に、職場に入院なんてさんざんだったわね」
その笑いながらしゃべるのをやめてくれないだろうか。
どんどん俺の心は沈んでいく。
「姪っ子さんを助けて怪我したんですってね」
「はい、そうです。俺がこの様ですけど」
首を縦に振りながらが答えた。
「立派な事よ。姪っ子さんは怪我無かったみたいだし」
そうなのだ。これがせめてもの救い。
師長はクスクスと笑いながら言葉を続けた。
「ただ、山下君は相変わらずね。
格好良く決められないというか、爪が甘い感じ」
どーせ俺は格好悪いですよ。
気分が落ち込んでいくのを感じた。
「もうこんな時間。今日は、先生から今後の治療方針の話もあると思うわ。じゃあ、また来るわ」
白衣のポケットに入れてある時計を取り出して時間を気にしたかと思うと、バタバタと別れを告げて出て行ってしまった。
……あーあ、骨折が治るまで仕方ないか。
治療に専念するしかない。
そう言い聞かせる事で、なんとかこの状況を受け入れようとした。