【完】白衣とお菓子といたずらと
彼女の動きがスローモーションの様に、驚くほどゆっくり見えた。


右手を伸ばす彼女。そして、俺の頬へと温かい手が触れた。



――…

――ちゅっ


俺達の距離は、ついにゼロになった。


気づいたときには、俺の唇は小川さんの唇によって塞がれていた。


目を閉じる暇もなく、驚いて目は見開いてしまい、そしてそのまま固まった。


……え、今、キスされた……よな?


何を思ったのか、小川さんは俺に急にキスをしてきた。可愛いリップ音をたてながら、触れるだけの優しいキスを。


何が起こったのか飲み込むまでに時間を要した。


この状況を一体どうやって信じろと言うんだ。


「……」


俺の様子にいたずらに成功した子どものような笑顔をみせながら、小川さんは俺から少し距離をとった。


相変わらず俺は何も言えないでいる。今の状況に、頭が追いつかないのだ。


俺の様子とは間逆の彼女は、本当に楽しそうにニコニコと笑っている。


「ごちそうさまでした。今のでいたずらはなしにしておきますね」


そう言って踵を返し、そのまま扉の方まで歩き、軽く手を振りながら病室から出て行ってしまった。
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