【完】白衣とお菓子といたずらと



――バタン


扉の閉まる音で、ハッとし、急いでベッド脇に置いていた松葉杖に手を伸ばし、彼女を追いかけた。いや、追いかけようと病室から出ようとした。


けれど、病室の前に置かれていた紙袋に気づき、足を止めてしまった。


先ほどまでなかったはずだ。


小川さんが置いていったのだろうか。他には考えられないけど。


不思議に思い松葉杖を片手に持ち変えると、少しだけ屈み紙袋を掴んだ。


袋を抱えた状態で、廊下を見回してみたが、彼女の姿は既に見当たらなかった。


今の俺の歩行じゃ彼女に追いつくのは不可能に等しい。


追いかけて、もし追いついたとして、俺は何を言えばいいんだ。


だから、追いかける事は諦めて、扉を閉め病室へと大人しく戻る事にした。


「よいっしょ」


こんな掛け声、年寄り臭いなと思いながら、ベッドへ座った。


俺が空けていいものなのか悩んだが、あそこに置いてあったのだ、きっといいだろう。そう結論付けて、持ち手にキレイに結ばれていたリボンを解き、中を覗いた。


そっと中身を取り出すと、可愛くラッピングされたクッキーと、ハンドクリーム、そして封筒が入っていた。
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