【完】白衣とお菓子といたずらと
「……あっ!」


何か下を向いてブツブツ言っていた池田が、ハッとしたように、急に顔を上げた。
急に上がった声に、ほんの少し驚いてしまった。


「さっき、付き合ってはないって言いましたよね。付き合って『は』って。絶対何かはありましたよね。……ていうか、何かあってくれないと、俺が報われないんですけど」


そして、また拗ねたような顔をした。


さっきから表情をコロコロ変えて、忙しい奴だな。


それに今の池田の言葉が気になった。1つ引っかかる話しがあった。


「俺が報われないって、どういうことだ?」


確かにはっきりと言った。俺と小川さんのことに池田が何の関係があるのか。


俺は質問には答えていないけど、質問で返した。








「小川の頼みで、俺の彼女を半日も取られたんですよ。折角、休みがあってデートしようと思っていたのに」


……あの日の話か。先日小川さんと話した内容が、頭に浮かんだ。


けれどそれがどうして俺に関係があるんだろうか。


「俺の彼女料理は苦手なんですけど、不思議とお菓子作りはうまいんですよ。だから、小川がお菓子作りの相談と買い物に付き合ってくれって、うちの彼女に頼んで、彼女がそれを受けちゃったんですよ。彼女に怒られたのもありますけど、山下さんに渡すって言っていたから、渋々承諾したっていうのに。何も起こってないなら、俺たちの貴重な時間を提供した意味がなくなるじゃないですか!」


話ながらその時の状況を思い出したのか、徐々に熱く語り始めてしまった。


けれど、今の池田の話しで、何となく色々な事が一本に糸で繋がった。


きっと彼女は、“ジンジャークッキー”作りの相談をしたんだ。


あらかじめ俺に渡すって池田に言っていたみたいだし、ちゃんと俺の為に焼いてくれたんだって分かって、嬉しくなった。


頬が緩んでしまいそうになるのを必死に堪えた。

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