【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~


「待って下さいっ!」


「………」


呼び止める副会長の声に振り返りはしなかったけれど、立ち止まった。




「見かけで判断して本当にすみませんでした」


後ろを振り返ると、頭を下げる副会長がそこにいた---




「副…会長---」


「東條さんのおかげでわたしはケガをしませんでした。本当にありがとうございます」



顔を上げた副会長と目が合うと、すぐに申し訳なさそうに顔を歪める。


そんな顔をされては私の方が申しわけないと、首を振った。



こんな事で苛立った私も大人気ないんだし---




「私も悪いんです。ですから副会長は気にしないで下さい」


「東條さん」


「はい?」


「私の事は…、時政と呼んではくれませんか?…綾香さん」


フワリと微笑む副会長に驚き、目をパチパチと瞬いた。



こんなに綺麗な笑みをする男の人を見たのは初めてで、魅入ってしまう。




何て…、


素敵な笑顔---



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