【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~
「ありがとう」
そう言って私に近づき、頭を撫でてきた。
凄く優しく撫でるその手つきに、私は目を瞑る。
気持ちいい---
暫くそうしていたら、そっと私の頭から離れていく手に気付きゆっくりと瞳を開けた。
まだ撫でて欲しいな---
そう、目で訴えてしまったのが分かったのか、時政先輩の瞳が困ったように揺れる。
「残念ですけど…、わたしはもう行かなくてはいけないのです」
チュッ---
「………ッ?!」
「それではまた」
いきなり私の頬にキスを落とした時政先輩は、またもや腰砕けになるほどの微笑を私に向け、そして去ってしまった。