【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~
平日の今日、いつも通りの時間に起きた綾香は一人一人にあてがわれている自分の部屋で、トーストにかぶりついていた。
寮には勿論食堂はある。
しかし朝から多くの人達に囲まれてご飯を食べるのが嫌な綾香にとって、部屋でひっそりと静かに食べるのがいつもの日常となっていた。
そんなのんびりとした朝食を食べ終えた綾香は、歯を磨き顔を洗ってから制服に着替えると机の脇に置いていたカバンを手に持った。
そしてエレベータへと乗り込む。
今、自分の居る場所である3階ボタンから1階ボタンへと視線を下ろしていき、素早く1階のボタンを押す。
ポーン---
スーッと落ちていく嫌な感覚に眉を寄せている内に、いつの間にか1階に着きドアが開いた。
寮の玄関から外へ出ると校舎に向かって伸びている道を、疎らだが人が歩いているのが前髪の隙間から見える。
校舎へと続く両サイドを木々で囲まれた道。
綾香はその道を歩くのが、とても気に入っていた。
周りの木々を見上げながら、心地良い鳥のさえずりに耳を澄ます。
そして息をそっとはいた。
今日もまた、一日が始まるなぁと目を細めながら---