【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~
「章平」
涙に濡れる顔を拭う事なく、目の前でピクピクと身体を小刻みに動かす巨大熊の最期の時までシッカリとこの目に焼き付けておこうと見ていていた。
異変が起きた。
巨大熊の身体がスルスルと小さくなっていくと同時に、人間の形になっていったのだ。
顔や身体中が血だらけでよく見えないけど、それでもその人間が誰だかすぐに分かった。
やっぱり…、
章平だったんだな---
カラン…
刀が手から滑り落ちる。
それを気にする事なく、俺はフラリと章平の前まで歩いた。
手を伸ばし、そっと顔に触れる。
章平の顔がヒンヤリと冷たくて…、
胸に何かが込上げてきた---