【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~
十二章 脱出
目の前で巨大熊が日本刀で切られた事によって、人間へと戻っていく様を食い入るように見ているとその傍へと走り寄る良牙がいた。
涙に濡れる良牙が痛々しくて見ていられない。
思わず視線を逸らした。
それでも涙声でその人に話しかける良牙の声が聞こえてきて、私の胸が震える。
多分、この人は良牙にとってかけがえのない親友だったのだろう。
自分の手で…、友を手にかけてしまったのだ。
もしそうだとしたら、辛くないわけがない---
近くでは白蛇から人間に戻った母さんを、父さんがガウンを着せ抱きしめていた。
母さんは命に別状はないようで、父さんの首に腕を回している。
先程母さんのもとへと向けていた足は、自然と良牙の傍で止まってしまった。
母さんも心配だけど良牙も心配だから---
それに母さんには父さんがいるから、私が行ったところでお邪魔虫になるだろうしね。