【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~
「匂い?」
思わずクンクンと嗅いでみるが煙臭い匂いが辺りを充満していて、とてもじゃないけど人の匂いなんてしない。
それどころ私の隣にいる蓮の匂いさえしないよ?
「俺の身体には狼の遺伝子が融合されている。…匂いには敏感なんだ」
「………」
安心させるためのウソなのか、本当に恢の匂いを感じているのかは分からないけど---
「分かった。良牙の言う事、信じる」
そして私は燃え盛る、黒煙で微かにしか見えない研究所を見上げた。
私達を翻弄し続けたこの研究所がなくなる事で、ここで行なっていた研究そのものが終わらないのは分かっている。
ここの研究所の社長が、生きているから。
それでも…、この研究のせいで私達家族のように離れ離れになる人達がいる事のないように。
変身人間が、もう誕生する事のないよう祈った。