【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~


喉元を喰いついてやった俺の父親だったその人はもう、目を見開いたまま動くことはなくただそこにいる。




コイツを殺せばそれで俺の気持ちが晴れると、ずっと思っていた…。


それなのにこの感情は一体、何なんだろうか?



ただ、虚しさだけが残る。


獣になった俺の瞳から、涙が零れ落ちた。




「グゥゥ…」


もう目を開く事のないソイツを呼ぼうとしたが、黒ヒョウとなった俺の口からは獣の声しかでない。



母親がいた頃の、家族三人での楽しかった光景を思い出した。




俺はコイツを殺したのは、間違っていたのだろうか?


いや、間違ってはいない。

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