【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~
【良牙SIDE】
父さんが母さんを抱き上げ歩き出したのを見て、俺も一歩足を踏み出した。
しかしすぐに足を止めもう一度、燃え盛る研究所を振り返る。
「章平」
誰にも聞えないように、小さな声でそっと親友の名を口にした。
俺達はこの研究所のせいで、翻弄される人生を歩んできた。
初めからこの研究所を爆破してしまえば、俺達の人生は変わっていたのかもしれない。
もしも…、
そんな事を言ったところで章平が還って来る事はないが、それでもそんな夢を見てしまうのはしょうがないだろ?
俺はお前と一緒に親友として時を重ね、成人したら酒を飲み交わしたかった。
お前が笑い、俺も笑う。
そんな当たり前の時を奪ったこの研究所の無残な姿を見て、嬉しい気持ちになるかと思っていた。
しかし現実は、そうはならなかったのだ。
研究所がなくなっても、お前はもう戻ってくる事はないんだもんな---
章平のピアスだったそれに触れながら、崩れ落ちていく建物を見る。
いけねぇ、そろそろ行かなくちゃな。
少し離れてしまった両親に視線を戻し、歩きだした。
もう、日も落ちかけたなと目を細めながら---
【良牙SIDE END】