恋愛写真館~和服のカメラマンに恋をした~





その日、出版社との打ち合わせの為に、店を閉めていた。



用事を思い出し、写真館へ戻ると、ある人が立っていた。





「あ、真智さんのお母さん」



「あ~!!良かった!!今日はもう会えないかと思っていたの」





駅前のケーキの箱を片手に持ったお母さんが嬉しそうに僕に近付いた。



そして、そのケーキの箱を僕の手に。




「これ、良かったら食べてちょうだい。疲れている時は甘いものがいいのよ」



「すいません。あ、あの、良かったら今から一緒に食べませんか?ひとりで食べるのも寂しいんで」




お母さんは、にっこり笑って、店の中に入ってくれた。


こういう所がとても好きだと思った。



真智に似て、ほんわかした空気を醸し出してくれる人だった。


お母さんが入ると、カメラ達も喜んでいるように感じた。




「実はね、ケーキふたつ買ってあるのよ。ふふふ。私の好きなチーズケーキ」



「そうなんですか?じゃあ、お誘いして良かったんですね。今、コーヒー入れますんで、ゆっくり座っててください」





僕は、ほろ苦いコーヒーの匂いに包まれながら、緊張していない自分に驚いていた。



お母さんとの時間が心地良くさえ感じられた。




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