恋愛写真館~和服のカメラマンに恋をした~
「彼女はいるんですか?」
と聞いた自分に後悔。
深入りするには早すぎたのかもしれない。
「はは。いるんでしょうかねぇ」
誤魔化された。
私は、慶次郎にとって被写体でしかないんだよ。
彼がそばにいたいと思う女になるなんて無理なのかな。
だって、きっと、慶次郎は女性を必要としていない人。
そんな気がする。
それから、慶次郎は写真について熱く語り始めた。
好きな人の話ってどうして楽しいんだろう。
興味のないはずの話なのに、楽しくて楽しくて時間があっという間に過ぎた。
「会社を辞める時、不安じゃなかったんですか?」
「そりゃ、不安だらけですよ。それこそ、結婚していたらこんな挑戦はできなかった」
慶次郎は印刷会社に勤めていて、そこを退社して、自分で写真館を始めた。
すごい勇気。
確かに、私が奥さんだったら不安かもしれない。
夢を応援してあげたいってのは理想論であって、現実にそうなると、かなり不安だよ。
「成功して良かったですね」
「成功、とは言えないですよ。経営も厳しいんで。だけど、何とか食っていけるんで、夢は叶ったんですかね」
白い腕によく似合う黒の皮のブレスレット。
髪を耳にかける仕草が好きだ。
「すいません。僕の話、つまらないでしょう」
慶次郎は手で首の後ろを触りながら、目を細くした。
「いえ、とても楽しいです。本当に写真を撮ることが大好きなんですね」
「はい! 写真は、心を写しますからね」
キラキラした瞳が眩しい。
お酒を飲んで、ほんのり赤くなった頬がかわいく見える。