恋愛写真館~和服のカメラマンに恋をした~
「どうされました?」
「あ、あの」
体が硬直して、口がうまく動かない。
顔の表情筋がおかしな動きをしている。
「写真を、撮りたいのです」
変な口調になる私を、暖かなひだまりのような視線で包み込む。
「そうでしょうね。ここは写真館ですから」
と口元を緩めた笑顔に、またズキュン。
ドキドキドキドキ。
この胸の高鳴りを誰か止めてください。
「リラックスしてくださいね」
そう言って、手に持っていたカメラをテーブルに置いた。
椅子に腰かけ、深呼吸をしていると、カランコロンといい音がした。
「まぁ、お茶でもどうぞ」
よく冷えた緑茶を出してくれた。
器を差し出すしなやかな動き。
深緑の液体の中で揺れる氷。
「少し苦いですけど、美味しいですよ」
そう言って、私から少し離れた。
私は、出されたお茶をゆっくりと口へと運んだ。
「美味しい!」
夏は麦茶だと思っていた自分が恥ずかしくなるくらい。
冷えた緑茶の美味しさに感動している私に、彼は涼しげな表情で微笑んでくれる。
「そうですか。それは良かったです。お仕事帰りですか?」
「はい。職場の知り合いがこの写真館を紹介してくれたんです」
喉が潤ったおかげで、普通に話せるようになった。
「そうなんですね。お仕事お疲れ様です。ゆっくりしてから写真撮りましょう」
彼はゆっくりと一歩私に近付いて、丁寧に名詞を渡した。
「野嶋慶次郎といいます。どうぞよろしくお願いします」
いい匂い。和風な名詞。
筆で書かれた手書きの名前。
“野嶋慶次郎”
慶次郎という名前がとてもよく似合う雰囲気の男性だった。