恋愛写真館~和服のカメラマンに恋をした~
綺麗な黒髪は肩につくかつかないかの微妙なラインで。
片方だけ耳にかけた髪が、彼が話すたびにリズミカルに揺れる。
涼しげな顔立ちをしているのに、どこか情熱を秘めたような。
今まで、濃い顔の男にばかり恋をしてきた私にとっては衝撃的だった。
「榎本真智といいます」
私も自己紹介をして、頭を下げた。
「真智さん、ですね。いいお名前ですね」
「そんなこと言われたの初めてです。ありがとうございます」
濃い顔をしているわけではないのに、見れば見るほどに新しい発見がある顔。
照れた時の表情が何とも言えず、チャーミング。
「では、こちらへどうぞ」
私は立ち上がり、ロボットのように硬い動きでスタジオへ足を踏み入れた。
「お見合い写真、なわけないですよね」
カメラの部品をいじりながら、彼はそんなことを言った。
返事に困っていると、急に謝る。
「すいません。冗談ですよ。変な質問しちゃいましたね」
申し訳なさそうな表情がかわいくて、困らせたくなる。
「お見合い写真ですよ。もう百回も失敗してるんです」
「え? まさか! そんなはずないですよ」
至近距離で目と目が合い、心臓が激しく高鳴った。
こんなにドキドキするのっていつぶりだろうって考えたら、高校時代憧れの先輩に告白した時の記憶が甦る。
「嘘ですよ。ふふふ」
ドキドキしていることを隠すために、余裕の表情を作りながら私は笑った。
また目が合い、彼もふふふと笑った。