声が聴きたい
それからの和希は落ち着かなかった。
普段とはまるで違ってしまっているようで、和希自身もその自分の変化に戸惑う。
自分は、母親を待っていたのだろうか、私は嬉しいから落ち着かないのか……考えても9歳の子供にはよくとらえることが出来なかった。
そして、誰にも言わずにお泊まり用のリュックに少しの着替えと勉強道具、お財布などをつめて、寝静まった佐藤家を未明に出た。
約半年間、子供としてお世話になった家だ、黙って出ていくことには抵抗があったが、母親にきつく言われたことを思いだし、メモも何も残さずに駅に向かった。
静かな駅までの道を不安げな様子で歩く和希。
母、希美花は何を想いいきなり会いたいなどと言ってきたのか、その気持ちが分からずになんとも言えない不穏なものが和希を包み込んでいた。
4時45分、駅前に着く。
電車の通らないこの時間は静かで、多分深夜と言われる時間帯までは、騒いでいた者も居ただろうが、今は誰もいない。
最近は開発の為に新しいビルが増えて、工事中のところもあり何だか、機械的な感じが怖さをあおる。