声が聴きたい
もう一度「お母さん、お父さんは?」と声をかけたが和希には何も聞こえない。
ただ、駅員が口をパクパクさせているだけにしか、見えない。
それが分かると和希から涙が止まった。
また、聴こえない……しかも、全く……だ……
そして、何だか分からない恐怖が和希を襲う。
和希は自分がいつから聴こえていなかったのか、気がつかなかった。
母親が来るのを待っていて、一時間ほどたち、ほんの少しだけ最初から感じていた諦めが、大きく広がってくると同時に涙が出て、周りの音や気配を感じなくなった気がする。
駅前は6時を過ぎて人も増えてきた。
駅員と小学生をチラリと見ながら通勤していく人達。
駅員はこのままここに居ても仕方がないので、「駅員さんのお部屋に行こうか?」と和希を誘導しようとする。
またしても、パクパクしている口元をなんとか読み取ろうとじっと見る。
駅員も、聴こえないのだと気がつき、ゆっくりと口を動かす。
言わんとすることがわかったらしく、コクりと頷く和希。
駅員の詰所につくと、椅子に座らせ、和希の目の前に紙を置いた。