声が聴きたい
駅から程近い警察署の建物に入り、一つの部屋に案内される。
側には女性警官がいて、優しく微笑んでくれている。
先程駅で出されたような紙を、指で指し示しながら、『分かるところを書いてね』と、もう一枚のメモに書いて見せる。
和希は、もう、このまま黙りでは居られない、素直に家の連絡先を書こうとペンを取った。
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「あ、こちら都警察署の谷と申しますが、佐藤さんのお宅で…………」部屋にある電話から女性警官が電話をするのを、ぼ~~っとしながら見ていると、ペットボトルのお茶が横から急に出てきて和希は驚いた。
「あぁ、驚かせて悪かったね、これ、どうぞ」と今度はメモに書いてくれた。
佐藤家では土曜の7時過ぎ、父親は早くに出勤、母親は起きてそろそろ子供達を起こさなくてはと、思っていた時間だった。
「はい、お宅のお嬢さんが、どうやら朝の5時前から駅で人を待っていたらしいんです、その方は現れなかったようです。今は和希さんは落ち着いてます、が……あのぉ、耳が聴こえないのは元々、でしょうか?」
母親は慌てて2階にかけあがり、和希の居ないのを確かめながら、最悪の事態に胸を痛めた。