声が聴きたい
和希は最初は登校を渋り、休みがちになっていた。
口元を読み取る読話や、手話、筆談用のメモ、補聴器……どれもが和希の心を苦しめた。
だが、夏休みに入っても、自宅まで週に2、3回は来てくれる担任の柏木先生の想いに触れて、頑なな心が少し解けていく。
少しだけ、やり場のない実母への気持ちを素直に柏木先生に吐き出すと、気分が軽くなった和希は、その事を母、美都子に話す。
すると母親は「和、我慢しなくていいよ、おもいっきり言ってやりなさい、貴女は悪くないんだ、いくらでも聞いてあげる」と優しく言ってくれた。
箍が外れた和希は漸く号泣しながら、自分は悪くないんだと、思い付く限りの事を叫んだ。
「どうしてこなかったの」「私が嫌いなのか」「約束を破るなんて酷い」……溜め込まれた1年間の想いが溢れ出てきた。
ひとしきり泣き叫んだ和希は、約束を破って自分をひどい目に合わせた母親のことはもう、忘れたいと、強く思った。
「お母さん……私、負けたく、ないよ、だから、中学は優と、一緒のところに、行かれるように、これから、頑張るっ!」
傷付いた心が癒えた訳ではないが、無理矢理にでも納得させ、前を向いた和希。