声が聴きたい
和希が転校してから秀はときどき難しい顔をしているときがある。
きっと、和希の事を考えているのだと思った。
そうして、6年の春に「俺、医者になる。まだ、何科とか分かんないけど、絶対になる」と言ってきた。
『絶対』の言葉を言う秀は、秘めた闘志をその眼に燃やしていた。
「あんなに面倒だっていってたのに?和のせいか?」
「せい、じゃない。俺と和の"ため"だ。今、めちゃくちゃ、やってやりたいって気持ちなんだ」
そう言い切った秀の顔は力に満ち溢れていて、輝いて見えた。
なんだか、秀のくせに……かっこ良くて「ふぅ~ん」なんていい加減な返事をしてしまった。
将来の進む道が指し示されていて、でも選んでも選ばなくても否定されないなんて、俺には羨ましかった。
俺にはまだ、なりたいものや、やりたいことがなかったから。
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和希は、明るさを取り戻してはきた、けど、笑顔がなんか、違うんだ。
努力してる姿が時々、痛々しく感じちゃうのは、きっと俺だけじゃないと思う。
傷は、深く深く、和希に残り、いつまでも苦しめてる。