声が聴きたい
そう、問いかけられて『確かに……見られたくないもの、他人には分からないものあるな』と思い当たる。
そんな顔の変化を見たのか「な?だから、整理する時間があるじいちゃんは幸せなんだよ」と言った。
「とは言ってもそんなに秘密はないんだけどな」なんておどけた風にいうじいちゃんを見て俺の肩の力が抜けた。
しばらく指示を受けて通帳やら書類を仕訳して、俺があげた付箋にじいちゃんがメモをして、張り付ける作業を繰り返した。
6時過ぎ、夕飯の時間が迫ってきた頃、「よし、これで終わりだ」とじいちゃんが言った。
「優一、こっち来てくれるか?」机に向かっていたじいちゃんの側にいくと、少し古い腕時計を俺に差し出してきた。
「これな、私が初めてのボーナスってやつで自分に買ったご褒美の腕時計なんだ、ちゃんと手入れはしてあるから。……貰ってくれるか?」
「じいちゃん……ありが、と……すっげ、嬉しい……大切にする。」溢れそうになる涙をこらえてそれだけ言うと、ごまかすように腕に着けてみたりした。
「医者を目指す秀太朗君も建築家を目指す和希も、苦労はあるだろうが、優一、お前が一番険しい道だと、じいちゃんは思うよ」