復讐
幸治と安田は、雑居ビルの3階にある『ClubBell』という名の店に入っていった。

『ClubBell』とは男性客に女性がお酌をし、会話を楽しむ店だ。

銀座の一等地に位置するそれは、大手企業の役員や政治家等に接待等で使われる事も多く、一般客は入れないような店だ。

一見さんお断り、という訳だ。


安田は、この店のマネージャーという立場だ。

平たく言えば、社長の次に偉いということなのだが、実質の現場の指揮は全て安田に任されている。
初老の男性とは言ったが、髪の毛をオールバックにし、ホールに凛と立つ彼の姿は正にハードボイルドという言葉が相応しい。
これで背が高ければ完璧なのだが。

だから安田は、長身の幸治とは横に並ばないようにしている。

そして、この店の社長は幸治だ。

若干20歳で、銀座の一等地のクラブの社長。

普通では考えられない。

しかし彼の場合は特別だ。
4年前に亡くなった母の後を継いだ形となるからだ。

だが、社長と言っても、表向きはただの雑用だ。

カウンターの奥で、洗い物やゴミ捨て等しかやらず、ホールに立つ事はない。
更には、店の会計等も全て安田に任せてあり、店の利益は全て幸治名義の貯金で、幸治はそこから月15万のお小遣を貰うだけだ。

まぁ、15万円を自由に使えるのだから、少ない額ではないだろう。


幸治は、そのまま店の奥へ入ると、さき程までの洗い物の続きを始めた。
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