復讐
確かに、煙草はケースの上から落ちていた。

そして幸治は続けた。

「多分、車でも同じやんな。今みたいに、衝撃が運転する人間にも伝わんねん。テレビリモコンのボタンは、シートベルトみたいなもんやね。だから、リモコンの上の煙草は無事やった。ほんでな、第一発見者は安田さんやん。彼が発見した時、犯人の三井はいびきをかいていて、シートベルトをしていなかった。なのに、無傷やった。これっておかしない?」

正臣は驚いた。事件の真相に関してもだが、これほどの事を、簡単に話す幸治に驚いた。

「すごいな、幸治。で、真犯人は誰なん?」

幸治は俯き、かぶりを振った。

「それはまだ分からん」

「そうか。でも、あまり無理はするなよ。もし幸治の身にまで、何かあったりしたら、おれだけじゃなしに、結衣や妙子も傷付くからな」

幸治は、力強く頷いた。

「うん、大丈夫や。ほんでな、おじさんに聞きたい事があるんやけど」

それを聞くと、正臣はおちょこに入った酒をクイと飲み干した。

やっと、頭の中が整理出来たのであろう。彼の仕草に、力強さが伺えた。

「おう、なんでも聞きいや」

「ありがとう。そしたら、ママの交遊関係を知りたいねん」

正臣は首を傾げた。

「交遊関係?それは、おれもよう知らんなぁ。なんせあれとは、そういう話は一切せーへんかったからなぁ」

「そっか。じゃあ、ママの遺品は?おじさんちにあるやんなぁ」

「おうおう、それやったら、二階の物置にあるから、自由に見たらええよ」

「ほんまに?ありがとう」

幸治はそう言うと、満面の笑顔で正臣を見た。

それを見た正臣もまた、上機嫌になり幸治に言った。

「じゃあ、おれも聞きたい事あるんやけど、ええかな?」

幸治は、キョトンとした顔で正臣を見た。

「ええけど、なに?」

「いやな、幸治ももう大人やん。結婚とかせーへんのかいや」

正臣の突然の質問に、幸治は驚き、口に含んだ酒を吹き出した。

「せーへんわい。僕、まだ20歳やで。そんなんありえへんやろ」
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