復讐

「やっと邪魔くさいのが消えてくれたわ」

山瀬はそう呟きながら、自分が蹴飛ばした机を丁寧に直した。

「あのぉ、どういう意味ですか？」

幸治は、恐る恐る山瀬に尋ねた。

「どうもこうもあるかいな。君、仲辻雪乃さんの息子さんやろ？」


「え？」

幸治は驚愕した。まさか、目の前にいる人間の口から母親の名前が出てくるなんて思いもしなかったからだ。

山瀬は、そんな幸治の驚いた顔を見て、半ば興奮気味に話始めた。

「いや実はな、わしも昨年まで東京に住んでてん。中央警察署いうところに勤務しとったんや。自分もよう知ってるやろ？中央署」

幸治は、ただ頷き山瀬を見た。


「まぁここまで言ったら、だいたい察しはつくと思うけど、わしもその事件担当しとってん。そん時は交通課やったからな」

山瀬は、カッカッカと笑い幸治に煙草を差し出した。
そして、幸治が煙草に火を着けようとしたと同時に、扉をノックする音が聞こえた。

「早野です。入ります」

山瀬が「おう」と答えると、扉を勢いよく開き、早野が早足で入ってきた。
そして、幸治の肩をポンと叩き「釈放だ」と言った。

しかし、幸治の安堵の表情とは逆に、山瀬はなんだか腑に落ちない表情をして早野を睨んだ。

「前田は？」

「あぁ、前田さんなら向こうで怒鳴り散らしてますよ」

早野は親指で扉の向こうを指さした。

「怒鳴り散らしてる？なんでまた」

「…山瀬さんのやり方には付いて行けないって」