甘くて苦い彼。
カツカツと乾いた音の響くローファーで足早に家を目指す。
春になったとはいえまだ外は肌寒い。
そういえば今年のさくらは開花がいつもよりも遅いって朝のニュースで言ってた気がする。
蕾だけがついた桜の木はどこか物悲しくてなんとなく嫌だ。
そんなときにケータイが着信を告げた。
着信はやっぱり彼からで。
「うんわかった」
まったく彼は本当に性格が悪いとしか思えない。
こっちが嫌とは絶対言わせないように巧みに言葉をつなぐ。
どうせ意味なんてないくせにまたそうして私を呼び出す。
でも誰よりも甘い。
だからまたイエスといってしまう。
はぁと息を一つこぼして、肩からずり下がったスクールバックを持ち直すと目の前の小石を蹴った。