鎖。*奈落の底へ落としてあげる。*
来は思い出したように秀麗に言った。
来の声は少し震えていて、若干鳥肌も立っていた。
秀麗への苛立ちは消えたようだ。

「やっと気付いたようだな。
そう、恭夜は“人に情はもたない悪魔”と皆に恐れられてるけど、その悪魔でも、みぃの前では“優しい兄”になる。」

何故か二人は秀麗の言葉に納得出来た。

この辺では恭夜の名前を知らない人はいないと言っていい程、恭夜は有名なのだ。



“桐谷家の長男”

としてではなく、


――“人に情はもたない悪魔”


として――



秀麗は小さな深呼吸をして、恭夜のところに行った。

「恭夜……。」

突然名前を呼ばれて一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔になった。

「秀麗!
未来が急に此処に来たからまさかとは思ったけど……今日はおじさん外出してんの?
それよかさぁ、未来を説得してくんない?!
今日に限って帰らねぇとか言い出してさぁ。」

来と那柚は自分の目を疑った。
だって、今目の前にいる悪魔は、本当に優しい兄の顔をしているから。

誰もが見間違えたと思うほど、悪魔の顔や雰囲気がなかった。
未来はもうすっかり落ち着いたらしく、泣いた後だからか、少し目が赤かった。
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