鎖。*奈落の底へ落としてあげる。*

あなたと、出逢ってしまった。

――……由緒正しい桐谷家が、

******鎖の家******

と呼ばれるようになってから
どれくらいの年月が過ぎ、
どれぐらい人や風景が
変化していっただろう。……――

「未来。」

朝から聞きたくもない声で、私の名が呼ばれる。
また、私のすることに文句を言うのだろうか。
それとも、ただの八つ当たり?

そんな私の考えとは全く違う予期せぬことを言われ、私は内心慌てたが、平然を装った。
でも後から考えたら、そうしておいて良かったと思う。
だって今日は………




















「今日はあなたの入学祝いをするから早く帰ってらっしゃい。
茶道の先生にはお休みの電話をするから。」

「分かりました。
学校に行く時間までに、ライのお散歩に行って来ます。」

そう、この日は私の入学祝いのために沢山の親戚が集まってくる。
いつもはお稽古を休むことを許さない義母も、今日だけは許さざるを得なかった。

そんなことを考えながら、私はさっき着たばかりの真新しい制服を脱ぎ私服に着替え、まだ皺1つない新品の制服を丁寧にハンガーにかけた。

「制服汚したら游(ユウ)さんに怒られちゃうもん。
ライのリードも持ったし、早く行こぉ。」

庭に出ると、ライは千切れそうなくらい尻尾を振って、私を歓迎してくれる。
この子だけは、真っ直ぐに私だけを見てくれる。
それがすごく心地よくて、私はライを抱き締める。

「ライ。
お散歩行こっかぁ(≧∪≦☆)」

ライはリードをつけやすいように、中腰になっている私の膝に顎をのせる。

「ライはお利口ね。」

頭を撫でながらライのリードを持ち、私は春を満喫していた。
気が付くといつものコースの折り返し地点に着いていて、携帯を開いて時間を見るとまだ余裕があった。

「まだ少し時間あるから、今日はちょっと遠く行ってみよっか?」
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