鎖。*奈落の底へ落としてあげる。*
未来は一息吐き、

「聞いていらっしゃるのでしょう?
恭兄様。
起きてらっしゃるのでしょう?
那柚くん。
コソコソ聞いていらっしゃらないで、堂々とお聞きなさってください。
私は気にしないので。
それに……兄は知らないでしょう?
母を。」

と言う。
確かに恭夜にとって“母”という存在は憧れだった。
生まれてから2年で、突然目の前から去った母。
朧気でしか覚えていない母。
恭夜も、母が亡くなるまで妹の存在を知らなかった。

「私は母から父のことはほんの少ししか教えてもらえず、その名を口にしただけで祖母に叩かれた。
だけど、私にとって雛森家は唯一の家で何より祖母のことは大好きだった。
雛森家は私に居場所をくれ、変に気を遣われることもなく、雛森家の人達は皆大好きだった。
祖母に叩かれても嫌いになれなかったのは、“私のことを考えてのこと”だって感じれたから。
一番辛い怒り方は、母だった。
声を荒げて怒るわけでなく、叩くわけでもなく……。
今までのどんな怒り方より一番辛くて、…一番……悲しかった。」

気付けば、未来の頬には一粒の涙。
母のことを思い、流した涙。
あの頃の楽しい日々を思い出し、あの頃の母を思い出し、あの頃の……{ジブン}を思い出し……。
< 38 / 86 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop