鎖。*奈落の底へ落としてあげる。*
すると、ライの横を凄いスピードで何かが通りすぎた。

「おい!
大丈夫か?!
薬は?!」

未来は苦しみに堪えながら、僅かに聞こえた声に小さく首を横に振り答えた。

未来は幼い頃から喘息持ちで、学校や出かける時はいつも薬を持ち歩いていたが、ライの散歩の時だけは持ち歩いていなかった。
それはライがいつも未来の傍で見守ってくれて、未来が走ってはいけないことを分かってくれていたから、走ることは絶対しなかった。

だから未来は薬を持ち歩いていなかったのだ。

「ライ……そこにいますか?」

未来は必死に呼吸を落ち着かせながら問う。
未来を支えている人が近くをキョロキョロ見渡してくれているのが、霞む視界ごしに見えた。
すると、近くで未来を心配そうに見守る犬を発見したらしく、未来をそっちに向けてくれた。

その人は確信がもてず、未来に見せて確かめようとしたのだ。
けれどその前に、その人は首に{ライ}と書かれたプレートがついている首輪をしていることに気付いて未来に教える。

「いるよ。
あんたを心配そうに見てる。」

それを聞いて、未来は苦しみながらも微笑んだ。
ライはそんな未来の方に歩みより、手をぺろぺろとなめる。

「ライ……くすぐったいよ。」

それから少しずつ未来の喘息は治まっていった。
その間その人はずっと未来を支えていてくれた。



この温もりが{あの人}に似ていて、少し………ほんの少しだけ、離れたくないけど……。



「もう大丈夫です。
喘息も治まったみたいですし、そろそろ朝食の時間なので。」

未来は離れたくない気持ちを抑え、ゆっくりと立った。
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