鎖。*奈落の底へ落としてあげる。*
そんな二人の様子を見ていた恭夜が、突然ぽつりと呟いた。

「これが……母さんの怒り方なんだな。」

「杏華、私達先に帰るね。」

杏華は無言で頷いた。
李依菜は安心したように微笑み、恭夜を連れて静かに保健室を出た。

「李依菜?」

「恭夜……、泣きたいなら泣いてください。
私が、見えないように抱き締めてあげますから。」

恭夜はかなり背が高く、李依菜と結構身長差があり、李依菜の肩に頭をのせる形だったが、それでも恭夜は安心したように静かに泣き出した。
李依菜も、精一杯腕を伸ばし、ぎゅうっと抱き締めていた。

そんな二人の脳裏には、同じ記憶が蘇っていた。

――恭夜・李依菜 12歳

「また、お母様の話でもされたの?」

「何で分かった?」

「すごく辛そうな顔してるから。
未来がいるから泣けないんでしょう?
誰にも見えないように抱き締めてあげるから、泣いてください。」

歳に似合わないほど大人びた李依菜と、まだ李依菜と同じ身長ぐらいの恭夜。
あの日と変わらない二人がここにいた。












「そろそろ帰りましょうか。」

「もう未来達も出てきそうだしな。」

仲良く手を繋ぎながら、二人は帰った。
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