鎖。*奈落の底へ落としてあげる。*
「ここが私の部屋。
いつでも来れるように、覚えてた方がいいかもね。」

そう言って、未来がドアを開けた時、春の匂いがした気がした。

「良い匂いがする。」

「那柚くんは鼻が良いんだね。
ねぇ、早くドア閉めて?」

「……ハイ。」

何か急かすように言う未来に、那柚は素早くドアを閉めた。
那柚がドアを閉めた時、未来は勢いよくベッドにダイブした。

「湖都の匂いだぁ。」

愛しそうに布団に頬をすりよせる。
だけど、すぐにそんな顔は消えた。

悲しそうな、冷静な口調で、

「この匂いね、私の大好きな人の匂いなの。
急にびっくりしたよね……。
湖都の好きなライラックの匂い……。」

来と那柚はなんとなく部屋中を軽く見渡した。
すると、部屋のいたるところにライラックと思われるものや、いろんな花が飾ってあった。

ベタンダ……ベッドの横にある棚(チェスト?)……出窓……

ベランダや窓の下には広い庭があり、そこにもライラックやいろんな花が咲いていた。

「一つ聞いていぃ?」

今まで黙っていた来が、未来に話しかける。
未来は来の顔色を見ると、来の顔は真剣だった。
それに未来は苦笑する。

「一つじゃすまなさそう。」

「よく分かってんじゃん。」
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