鎖。*奈落の底へ落としてあげる。*
階段を一段一段あがっている時、来はふとあることに気付いた。

「なぁ………。」

「ん?」

重い感じの来の声とは違い、明るい声で返す那柚。
来は少し考えながら、ぽつりと呟く。

「……俺が訳ありで此処に泊まってるって、一言でも言ったっけ?」

それを聞いた那柚は満面の笑みで、

「俺が言ったのかも。」

と言った。

「……………は?
お前何言ってんの。
俺が何で此処に来たか、お前に言ったよな?
それまでお前言ったのかよっ!」

来は前を歩いていた那柚を押し退け、先に那柚の部屋へ行った。

「………那柚くんのヘタ。
嘘つけないのについちゃって。」

「未来さんだけですよ。
僕の嘘、気付くの。」

階段の死角から未来がクスッと微笑しながら現れる。

「那柚くん……ありがと。
私をかばってくれて。」

そして未来は微笑むと、来のあとを追いかけた。

――こん、こん。

「来くん?
未来だけど……、入ってもいいですか?」

来は驚きで一瞬動きが止まった。

「なんで未来?
那柚は?」

――がちゃ。

未来は躊躇なくドアを開けた。

「入っちゃった。」

そう言って舌を少し出した未来に、来はもう何も言う気がおきなかった。

「私ね、来くんがどうして此処で暮らしてるのか、知ってるょ?
那柚くんは何も言ってない。」

未来は来の目の前に座り、目を見ながら話しだす。
来は目線で先を促す。

「全ては言えないけど、今来くんが知りたいことは教えます。
私の親戚が、………………黒百合学園に関係者としているからです。
此処まで来るための道も、その方に聞きました。」

未来はそれだけ言うと、那柚の部屋を出ていった。
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