甘い愛で縛りつけて


……ううん。でも、そんなハズない。
だって、恭ちゃんはこんな感じじゃなかったし。

髪だって黒くて厚ぼったかったし、もっと全体的に冴えない感じで、雰囲気も全然違う。
長い髪は目もとまであって、ただでさえ表情が見えにくいのに、それをさらに黒縁眼鏡で隠していた。

だけど、そこから覗く優しい微笑みが大好きだったんだ。

私は。
小学校三年生の頃から、恭ちゃんが引っ越しちゃう六年前までずっと、恭ちゃんが好きだった。

だからこそ、目の前にいる人が恭ちゃんだなんて信じられない。
だって、そんなにずっと好きで追い回していたのに、その本人を目の前にして気づけないなんて事があるハズない。
でも……訴えかけるようにじっと見つめてくる瞳に、なぜか恭ちゃんが重なるのも事実で。

雰囲気も外見も昔とは違うけど……もしかしたら本当に恭ちゃんなのかもしれないなんて考えがチラチラと頭の中に浮かび始める。

「恭ちゃん……?」

半信半疑で呼んだ名前に、恭ちゃんらしき人がふって安心したみたいに微笑む。
信じられないけど、優しい微笑みが昔の恭ちゃんと一致した時。

まるでふたりしかいないように感じていた空間に、「朝宮くん」と恭ちゃんの名字を呼ぶ第三者の声が聞こえた。



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