甘い愛で縛りつけて
ハっとして声のした方向を見ると、数メートル先の廊下に事務長の姿があって驚く。
「朝宮くんだろう?」
「……お久しぶりです。新井さん。
今はこちらの事務長をされてるんですね」
「ああ。今年度で定年だ。しかし、三年ぶりか。本当に久しぶりだなぁ」
懐かしそうに微笑む事務長は、確かに“朝宮”って呼んでた。
朝宮恭介。
本当にこの人が、恭ちゃんなんだ……。
驚いて見つめる事しかできずにいると、恭ちゃんは事務長にぺこりと頭を下げる。
「新任の時には本当にお世話になりました」
「いやぁ、君は仕事に関しては新任の時から完璧にこなしていただろう。私は何の世話もしていないよ」
「ですが、僕のことを気にかけてくださっていたので」
「私が気にしていたのは、仕事面ではない。君も分かっていただろう?」
恭ちゃんが苦笑いを返すと、事務長はふっと柔らかく笑った。
「ただの年寄りのお節介だ。
とはいえ、一年間同じ場所で仕事ができるとなると、またいらない世話を焼いてしまいそうだがな」
「ありがとうございます」
また頭を下げた恭ちゃんをぼーっと見ていると、「河合さん」と事務長に呼ばれる。
急に話しかけられて驚くと、鞄を差し出された。