甘い愛で縛りつけて


「私の鞄……持ってきてくださったんですか?」
「どうも田口くんが悪酔いしているようだし、河合さんが困っているのが見て分かったから。
今日の会費は後日徴収になるようだし、先に帰るといい」
「え、でも……」
「田口くんに随分飲まされただろう? もともと強い方ではないし、もし酔いつぶれて田口くんに持ち帰られても問題だから」
「……事務長、田口さんの噂ご存じだったんですね」
「同じ校内にいれば、同じ話が聞こえてくるものだからな。田口くんには折を見てやんわり注意するつもりだよ」

鞄を受け取った私に、事務長が微笑む。

今年65歳を迎える事務長が笑うとたくさんのシワができる。
事務長の人間の深みを表しているようなそれに、背筋が伸びる思いだった。

「すみません。じゃあお言葉に甘えて先に帰らせていただきます」
「それがいい。
ひとりで大丈夫かい? もし不安なようなら私が適当な先生に送ってもらうようお願いを」
「事務長。それなら僕が。
ちょうど帰ろうと思っていたところですから」

そう名乗り出たのは恭ちゃん。
一人でも大丈夫ですからって言う気だったのに、どんどん進んでいく会話にタイミングを逃す。


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