甘い愛で縛りつけて


「え……っ、どうしよう!」
「隠れた以上、今更出て行って謝るのもおかしな話だし、密室から出てきたってなると変な目で見られるかもな」
「っていうか、なんで隠れたりするの? 普通に謝ればよかっただけの話なのに!」
「しょーがねーだろ。咄嗟だったんだから。まぁ、すぐ戻るだろ。実紅がさっきみたいな大声出さなければ」

そう言った恭ちゃんは、ドアから離れて教室内を歩き始める。

入った部屋は図書室。
恭ちゃんよりも背の高い本棚がたくさん置いてあって、その中にはぎっしり本が詰め込んである。

広さこそそんなにないけど、置いてある本の数はかなりものだと思う。

司書の先生がいない事にホっとしてから、私も恭ちゃんの後ろを歩きだす。

「図書室とか、すげー久しぶり」

恭ちゃんが、歩きながら本棚を見上げて言う。

その横顔を見ながら、さっき無意識に考えていた事を、もう一度考え直してみる事にする。

恭ちゃんのたまに見せる優しい微笑みとか、力強い腕とか。
そういうものを独り占めできたら、なんて事を、ついうっかり無意識に、でも確かに考えてた。

桜田先生と有坂さんのすさまじいやりとりを見てすぐだったから、思考が恋愛よりになっちゃってただけかもしれないけど……。
それにしたって問題だ。



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