甘い愛で縛りつけて
いつもは尊敬してやまない事務長を、今ばかりは少し恨んでしまう。
いずれは気づいていた気持ちだっていうのは分かっているけれど。
好きだなんて気づいたら私は普通に接せられなくなっちゃうから困るんだ。
だからなるべく気づきたくなかったし、気になる程度の気持ちでいたかったのに。
自分自身も誤魔化していたかったのに。
それでも、悪口のひとつも思い浮かばない事務長の人柄に白旗を上げながら、たくさん並ぶ本棚を見上げて歩く。
「こんだけ本があると、実紅んちのクローゼットん中を思い出すな」
「え、うちの?」
「俺が引っ越すって聞いて、実紅、自分の家のクローゼットん中に俺を閉じ込めただろ。
“行っちゃやだ!”って」
笑いながら言われて、徐々に思い出す。
そうだ……。確かにそんな事があった。
「そういえばあったね、そんな事……行かないでって恭ちゃんと一緒にうちのクローゼットに隠れたんだっけ」
思い出話を、苦笑いしながら話す。
「そう。どう考えたって中学生がとる行動じゃないけどな。おまえ、成長期なかったんじゃねーの」
「中三で一気に成長したから、中二の時はまだ子供だったの。いいでしょ、別に」
自分でも恥ずかしくなる思い出を指摘されて、頬を膨らました。