甘い愛で縛りつけて
「実紅には頼みたい仕事があったから、僕が呼んだんですよ」
本来なら患者が座る椅子に座っている桜田先生に、その向かいにある自分の椅子に座った恭ちゃんが、私の代わりにそう答えた。
「実紅、入っておいで」と微笑む恭ちゃんに、溢れ出そうになった感情が喉のあたりにつまって苦しい。
「お手伝いなら私がしますよ、朝宮先生」
「ありがとうございます。でも、事務長に許可ももらっていますから」
「私、あまりよくないと思うんです。親戚だからって河合さんとばかり一緒にいると変な噂が立ちますし」
「そうですか? でも実紅も仕事の一環として僕の仕事を手伝ってくれてるわけですし、生徒ってわけでもないので大丈夫かと」
「だとしても、あまり親密になるのはどうかと。必要なら私がお手伝いしますから言ってくだされば……」
「親密だなんていうなら、桜田先生の方が気を付けた方がいいと思いますけどね」
「……なんの事ですか?」
少しの間を空けて聞いた桜田先生に、恭ちゃんが笑顔のまま続ける。
「だって人気があるらしいですから。生徒にも教員にも」
「それを言うなら朝宮先生だって……」
目の前で交わされているのは、たいした内容じゃない世間話やお世辞だ。
だけど……それだけでも気に入らなくて、見ていたくなかった。
まるで私に見せつけるように恭ちゃんの傍に座る桜田先生を、見ていられなかった。
私にはもう、そこに座る事はできないって、そう告げられている気がして。