甘い愛で縛りつけて
「……私、帰ります」
恭ちゃんが少し驚いた顔で私を見る。
その表情に、まだここにいろって言われているみたいで、見ていられなくなって目を逸らした。
恭ちゃんの顔を見ていたら、何も言えなくなっちゃいそうだったから。
「桜田先生が手伝ってくれるなら、私は必要なさそうだし。
これから……事務の仕事が忙しくなるから、もう手伝えそうもないし、明日からも多分これない。
今日はそれを伝えにきただけだから」
「実紅、様子がおかしいけど、もしかして体調悪い? もう仕事も終わりだし家まで送るから……」
「そんなの必要ないから……っ」
「でも……」
「私は大丈夫だから……だから、じゃあね、恭ちゃん」
最後、なんとか笑顔を作ってから保健室のドアを閉めた。
中から私を呼ぶ恭ちゃんの声が聞こえたけど、立ち止まらずに玄関までの廊下を走る。
恭ちゃんと桜田先生が並んだところなんて、悔しくて見ていられなかった。
イライラした思いが、胸を焼いているみたいに息苦しい。
これからも桜田先生が当たり前のように恭ちゃんの傍にいるつもりなのかと思うと、真っ暗な闇に突き落とされたみたいにただただ怖くて悲しかった。
真っ暗になった頭の中を必死に切り替えようとしたけど、何度も失敗してしまって。
ムシャクシャした気持ちを追い出したくて、駅までの道を必死で走った。