甘い愛で縛りつけて
◇「実紅。ちゃんと答えろ」
ずっと走り続けたのに、駅の階段を駆け上がっても不思議とそんなに息も上がらなくて。
残念ながら頭の中も切り替わる事はなく、保健室を飛び出した時のままだった。
もういい加減うんざりするような思いにため息を付きながら、着いたばかりの電車に乗り込む。
下校時間を過ぎた電車内は、学生の姿はさほど目立たないけれど、サラリーマンが多くて座れる場所はなかった。
ぎゅうぎゅう詰めってわけではないけれど、それなりに混み合っている中、ドアを入ってすぐのシルバーのポールに身体を預けるように寄りかかった。
間も無くして電車が走り出す。
四角い窓の向こうを流れる景色を見ながら、じわりと目の奥が熱くなるのを感じた。
「同じ人に二度も失恋なんて……」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
結局、両方ともきちんとした答えをもらう前に終わってしまった想いが、胸の中で行き場をなくして漂う。
六年前、恭ちゃんの引っ越しで閉ざされてしまった想い。
そして今……ふたりの行為が、閉ざしてしまった未来。
出逢い直せたらいいのに。
無駄だって分かっていてもそう思わずにはいられなかった。
こうなったのは、桜田先生のせいじゃない。
全部自分のせいだ。
自業自得だって分かっているからこそ、悔しくて仕方なくて……情けない思いでいっぱいになる。